和菓子トラベル

黒文字のこと 第二話

「黒文字」のルーツを訪ねて

① つまようじ資料室

黒文字は、そもそもクロモジ製の菓子楊枝です。つまり、「つまようじ」と同じ「楊枝」の仲間。だから黒文字のルーツはおのずと楊枝の歴史に重なっていきます。 そこで、大阪府河内長野市にある日本で唯一のユニークなミュージアム「つまようじ資料室」を訪れました。

つまようじ資料室稲葉さん

さっそく出迎えてくれたのは、つまようじ資料室管理人の稲葉修さん。稲葉さんは、老舗つまようじメーカー広栄社(現在は、つまようじのほかオーラルケア用品も扱う会社です)の会長でこの資料室の設立者です。日々、つまようじの知られざる歴史や文化を伝える活動をされています。 「たかが一本のつまようじですが、奥深いんですよ」と熱く語る稲葉さん。その言葉通り、日本の楊枝の歴史は、なんとインドのお釈迦様からスタートしたのだそうです。

海外で使われる歯木

楊枝は、仏教とともにインドから中国・朝鮮半島を経て日本に伝わりました。もともと歯木と呼ばれ、口の中を清潔に保ち、身を清めるための必需品とされ、仏教ではとても大切な道具です。歯木の材料はインドでは薬木のニーム、中国ではニームのかわりによく似た楊柳の枝が使われました。「楊枝」という名前が付いたのは、このためです。

つまり、初期の楊枝は、歯を磨く道具。のちに房楊枝(歯ブラシ)と爪楊枝(つまようじ)に分かれ、菓子楊枝となる黒文字が登場するに至ります。

ヨーロッパの細工楊枝

資料室には、そんな歴史にまつわる資料がいっぱい。日本のものだけではなく、ヨーロッパの豪華な細工物のアンティーク楊枝や、楊貴妃が使ったかも?なんていうお宝もあって、素晴らしい展示品の数々に圧倒されます。

京都には楊枝の神聖な力にちなんだ行事が残っています。有名なのが、三十三間堂の「楊枝のお加持大法要」。特別な楊枝で浄水をかけて、無病息災を祈る行事です。

黒文字を入り口に楊枝の世界をひもとくと、そこには思ってもみなかった深い歴史がありました。 いつもの和菓子をいただく道具としての黒文字が、なんだか清らかでとても尊いものに思えてきます。これも熱い「つまようじトーク」を繰り広げてくれた稲葉さんのおかげです。

リンク:つまようじ資料室
http://www.cleardent.co.jp/siryou/

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取材・文  長友麻希子(ながともまきこ)
フリーライター&同志社女子大学非常勤講師。主な著書に「日本食探見(京都新聞出版センター刊)」、その他新聞連載等多数。長年、京都の食や伝統文化を中心に取材執筆しています。和菓子の世界には、日本文化のはぐくんできた知恵や美意識がたくさん秘められています。コラムを通じて、みなさんと一緒にそんな和菓子の素晴らしい世界を旅していけたらうれしいです。