和菓子トラベル

阿波・和三盆の里へ 第三話

さて、和三盆作りの真骨頂ともいえるのが、「研ぎ」と呼ばれる精製法です。この研ぎがあるからこそ、和三盆と呼ばれます。和三盆特有の美しい白さと、洗練された甘味の両方を生み出してきたのが、まさにこの研ぎという伝統の精製技術なのです。

こちらへどうぞ」と岡田社長に案内されたのは、大きな古い木造の建物。この「研ぎ場」で白下糖から和三盆になるのです。

「ひんやりしてるでしょ」

建物に一歩入ると、そこは、さっきまでの熱気に包まれた釜場とは対照的に冷気を感じる別世界。使い込まれた木製の天秤棒や重石が並び、まるで酒蔵を彷彿とさせます。

黙々と作業に打ち込んでいる熟練の職人さんを前に、岡田社長が製法を解説してくださいました。

「まずは堅い白下糖を分けて麻布で包み、木製の押し船と呼ばれる絞り器に入れて重石をのせます。これで白下糖に含まれる糖蜜を絞り出すのです。

一日経ったら、箱から取り出して、今度は「盆(研ぎ船とも言う)」と呼ばれる台の上で水を加えながら素手で研ぎます。練るのではなく、よりシャープに研ぐという感じです。水を加えすぎると砂糖が溶けてしまうので、そこは職人の勘所ですね。その日の気候によって、手の感触で水の量を決めています。

ある程度研いだらまた麻布に包んでまた型にもどして重石をのせ、一日置きます。

この作業を繰り返すと、三回目くらいから色が白くなってきます。

和三盆の名前のルーツに盆の上で3回研ぐから和三盆という説がありますが、真相はよくわかりません。実際には、5回は研ぎます」

「研ぎを終えた砂糖は乾燥させて、やや水分が残っている状態でさいの目にカットして、大きな網目のザルを使ってふるいにかけます。決して、つぶしながらふるったりはしません」

この昔ながらの方法により、粉と塊の霰糖に分かれます。この霰糖は、まさに手作りならではの恵み。なんと絶品の干菓子になります。

「出荷するにはさらに乾燥させなければなりませんが、この段階の和三盆は水分を含んでいるので、いちばん美味しいんですよ」と岡田社長。

お言葉どおり、出来立ての霰糖は最高の美味しさでした。

竹糖という風土が生み出した繊細な味わいのサトウキビ。そして、手作りだからこそ可能になる程よい精製による雑味。 その絶妙なバランスが、上品でいて自然の素材の風味が際立つ和三盆を生み出していたのでした。

和三盆のひみつを知ると、さらに味わいも深くなる。そんな旅の一日でした。

第一話を読む  第二話を読む  さくいん


取材・文  長友麻希子(ながとも まきこ)
フリーライター&同志社女子大学非常勤講師。主な著書に「日本食探見(京都新聞出版センター刊)」、その他新聞連載等多数。長年、京都の食や伝統文化を中心に取材執筆しています。和菓子の世界には、日本文化のはぐくんできた知恵や美意識がたくさん秘められています。コラムを通じて、みなさんと一緒にそんな和菓子の素晴らしい世界を旅していけたらうれしいです。