河内長野市の中心街から車を走らせて10分ほど。のどかな田園風景が広がるエリアにやってきました。ここに、国産黒文字の生産を復活させた菊水産業株式会社さんの工場があります。
河内長野周辺は、もともとクロモジやウツギがたくさん自生していたことから、黒文字やつまようじの生産地として発展した地域です。昭和初期には全国一の産地として名を馳せたそうですが、残念ながらいまはほとんどが安価な外国産にとって代わられてしまっています。いつのまにか材料のクロモジも入手困難になりました。 お釈迦様に始まり、伝統的な日本の菓子楊枝として発展をとげた黒文字ですが、そんなわけで長年、もはや国産は手に入らないとされていました。それが今年、菊水産業さんの努力によってついに復活したのです。
クロモジの木
国産黒文字の製造現場に一歩足を踏み入れると、なんとも爽やかなよい香りが。
クロモジができるまで
黒文字作りは、まずクロモジを洗い、節のない部分を選んで切ります。黒文字に欠かせない樹皮をつけたまま木を割り、さらに厚みと幅を一定にしていきます。四角く整ったら、長さを揃えて切ります。先端を三方から三角になるように美しく削るのがポイントで、もう一方の端は2ミリほど樹皮を落とします。完成までの工程は比較的シンプルに見えますが、不揃いな自然素材を加工するため、丁寧な職人技が要求されるのだそうです。
和菓子は、まさしく日本文化を象徴する食べもの。いつか国産の黒文字ですがすがしく和菓子をいただく日が当たり前になるといいなあ……なんて思った一日でした。
ちなみに菊水産業さんの黒文字やつまようじのブランドネームは「楠木楊枝(くすのきようじ)。」クスノキ科のクロモジを素材に使うから?と質問したら、創業したご先祖が、地元のヒーロー楠正成公の大ファンだったから……との答え(笑)。 菊水産業株式会社の末延秋恵さん、田畑雅之さん、ありがとうございました。
リンク:菊水産業株式会社
http://kikusuisangyo.co.jp/
取材・文 長友麻希子(ながともまきこ)
フリーライター&同志社女子大学非常勤講師。主な著書に「日本食探見(京都新聞出版センター刊)」、その他新聞連載等多数。長年、京都の食や伝統文化を中心に取材執筆しています。和菓子の世界には、日本文化のはぐくんできた知恵や美意識がたくさん秘められています。コラムを通じて、みなさんと一緒にそんな和菓子の素晴らしい世界を旅していけたらうれしいです。