本物の和三盆の世界を見てみようと、宮崎さんとともに訪れたのは、徳島県にある岡田製糖所さん。昔ながらの製法にこだわる、ちょっと特別な製糖所です。
瀬戸内に近い四国の冬は、明るく晴れやか。すがすがしい冬の一日、極上の和三盆の甘味を堪能する、素敵な旅になりました。
和三盆が作られているのは、四国の讃岐地方と阿波地方。県をまたぐとはいえ、二つの生産地はごく近いエリアにあります。今回、訪れた岡田製糖所さんは、阿波を代表する老舗です。
和三盆作りは、いわば冬の風物詩。原料になるサトウキビが成熟して糖度を上げる時期を見計らって収穫するためです。ちょうど12月から2月が最盛期で、私たちが訪れた2月上旬はまさにサトウキビを絞って糖蜜を作る作業の真っ只中でした。製糖所の周りの広い敷地には、近隣の畑から引き抜かれたばかりのサトウキビが山積みされていました。
製糖所に着くと、さっそく社長の岡田和廣さん(柔和な雰囲気の岡田さんですが顔出しNG)が案内してくださいました。
「これが竹糖(ちくとう)といいまして、和三盆用の品種です。ふつうのサトウキビよりずいぶん細いでしょう」
岡田さんが手に取ったのは、ひょろりと細長い、まさに竹のようなサトウキビ。一口かじって味見すると、竹糖の蜜は思ったよりも、ずいぶんさらりとした印象の甘味で、草のように青く、爽やかな香りがします。
「これでないと和三盆にはなりませんよ。ほかのサトウキビを使うと和三盆の味は出ません。竹糖がすべてです」
和三盆専用のサトウキビの「竹糖」は、この地域独特の品種だそうで、地元の伝承によると、もともと江戸時代に九州の日向から伝わったといわれている。代々育てることで、土地の気候条件にあったサトウキビ「竹糖」が育まれたとか。
岡田製糖所のある場所は、阿讃山脈を望む扇状地。岡田さんの説明によれば、「この辺りは、もともと水はけがよすぎて稲作に向かない地域。意外にもそこに適していたのが竹糖だった」というわけです。
竹糖は細いだけでなく、人の背丈ほどにしか成長しません。九州や沖縄で黒砂糖用に栽培されているサトウキビはもっと太く、背丈も2メートル超えるのが普通です。つまり、素朴で野趣あふれる黒糖の味わいとは異なる、和三盆の洗練された甘味は、この土地の風土によってはぐくまれたものなのです。
「うちは、基本的に農薬などは使わずに栽培しています」と岡田さん。扱う竹糖はすべて、近隣の栽培農家に細かく指示して作ってもらっていると話します。そういう竹糖へのこだわりが、極上の和三盆の味わいにつながっているようです。
取材・文 長友麻希子(ながとも まきこ)
フリーライター&同志社女子大学非常勤講師。主な著書に「日本食探見(京都新聞出版センター刊)」、その他新聞連載等多数。長年、京都の食や伝統文化を中心に取材執筆しています。和菓子の世界には、日本文化のはぐくんできた知恵や美意識がたくさん秘められています。コラムを通じて、みなさんと一緒にそんな和菓子の素晴らしい世界を旅していけたらうれしいです。