和三盆作りは、大きく分けると2つの工程に分かれます。竹糖から糖液を絞って煮詰め、白下糖(しろしたとうと読む。精製する前の砂糖のこと)を作るのが一つ目、そこからさらに白下糖を精製するのが二つめの工程です。
まずは白下糖作りまでを見学します。
「ここは『締め場』と呼んでいます」
岡田さんによれば、締めとは、いわゆる圧搾のこと。竹糖から灰色がかった緑色の絞り汁がどんどん出てきます。
「いまは機械絞りですが、昔は牛が石のローラーを回してしぼっていました。基本の製法は変わりませんが、動力源は変化しています」
「締め場」の次は、「釜場」へ。絞り汁を荒釜と呼ばれる大釜で煮詰めます。絞り汁に大量に含まれているアクを加熱しながら抜いていく作業で、ここで少しでもアクが残っていると、後に精製しても、ドス黒い砂糖になってしまうので神経を使うそうです。
完全にアクが抜けると、飴色の液体に仕上がります。それを沈殿させて不純物を取り除き、今度はさらにそれを煮詰めて濃度を見極めて仕上げます。
その後、木桶に入れて撹拌しながら冷まし、素焼きの壺に入れると、白下糖の完成です。白下糖は二か月以上寝かせて熟成させます。
熱い湯気が充満する釜場での苦労を岡田さんに尋ねると、「じつは、和三盆作りの難しさは冷ます方にあります」と意外な答えが返ってきました。
「温度を下げて冷やしていく過程でうまく結晶を作るのが何より難しいんです。これもやはり『しめ子』さんの勘だよりですね」
ちなみに、この白下糖づくりまでの作業を行う職人さんを、昔から『しめ子』と呼んできたそうです。
取材・文 長友麻希子(ながとも まきこ)
フリーライター&同志社女子大学非常勤講師。主な著書に「日本食探見(京都新聞出版センター刊)」、その他新聞連載等多数。長年、京都の食や伝統文化を中心に取材執筆しています。和菓子の世界には、日本文化のはぐくんできた知恵や美意識がたくさん秘められています。コラムを通じて、みなさんと一緒にそんな和菓子の素晴らしい世界を旅していけたらうれしいです。