堀江光治さんは京都北部、園部のるり渓で農業をされています。温泉街を過ぎ、川の流れに沿って進むと、パッと田畑が広がります。光治さんのお宅はその一番奥の高台にあり、お宅の裏には清流が流れています。オオサンショウウオも生息しているという美しい水の恵みを受け、この地でお米、小豆、大豆、そして季節の野菜を、代々作ってこられました。
この日はお邪魔するや否や、「今、黒豆茹でてるしな、食べてもらおと思てな。もうちょっと待ってや」、そうおっしゃって湯気のたちのぼるぷりぷりの丹波黒の枝豆をザルごと、目の前にどんと置いてくださいました。ここは丹波。栗も小豆も黒豆もとびきりの地。茹でてくださった黒豆の枝豆はうっすらと紫色で、口の中で濃厚な旨味が広がります。
思わず「おいしい!」と叫ぶと「うまいやろ、それな、茹でる前はこんなんや。中にはこんな虫入ってるのもあるけどな、売るのにこんなんは、はじくけどな、うちでこうして食べたらええねん。うちのは栗も豆も燻蒸せんからな、虫がおるんやわ。今はどこも薬撒いて、収穫してからまた燻蒸いうて消毒してな。お客さんが虫嫌がるからな。そやけど虫いたら取ったらええねん。虫はおるもんやからな、取ったらしまいや」、枝に付いたままの黒豆を見せてくれながらそんな風にお話が始まります。
おいしい枝豆をいただきながら「ほんとにそうだな、虫が入っていたらクレームになるけれど、でも虫は取ったらいいんだよな」、頭の中で小さな思い込みがひっくり返ります。
取材・文 井崎敦子(いざき あつこ)
10年前、同志社大学大学院社会人講座・有機農業塾に入塾、長澤源一氏の指導を受ける。現在も大原で小さな畑を耕しつつ、左京区にオーガニック八百屋「スコップ・アンド・ホー」をオープン。今秋からは仲間とともに京都ファーマーズマーケットを立ち上げる。美味しいものを通じてつながってゆくご縁が嬉しい日々。